この十数年の東北の農業を引っ張ってきた主役は女性農業者たちではなかろうか。出口の見えない農業情勢の中でも女性たちはコツコツと畑を耕し多彩な野菜を育て、毎日それらを野菜直売所に運び続けてきた。 当初、一袋100円ほどの野菜がいくら売れたところでたかが知れているさ、と軽んじられもしたが、女性たちは決してあきらめなかった。そして今では月に10万、20万円の売り上げも当たり前になり、地域の農産物直売所は全国に10,000ヵ所以上も開設され、食と農の新しい拠点として社会と暮らしの中に定着した。 むろん女性たちの活動は直売にとどまらなかった。知恵と工夫を凝らした手作りの食品加工。本当の旬の味を伝えたいと農家レストランの開設。都市との交流を求めてグリーンツーリズムへの参加。地域の食文化と食べる大切さを伝える自然の上に立った食育活動も女性農業者なしには考えられない。こうして日本農業の新しい動きの現場には、いつもその先頭に女性たちがおり、明るい笑顔があった。 現在、農業就業者の53%は女性である。もともと手間の掛かる農業は女性の力に負うところが大きいのだが、それが表にあらわれ評価されることは残念ながら少なかった。それが直売活動を契機にその実力が次々に花開いた。そして近年は着実な地歩を築くために農村女性の起業化が進んでいる。 農水省の資料によれば、1997年に4,000を数えた女性起業数は2005年には2.2倍の9,050に伸び、その上位は東北各県が独占しているという。女性たちが東北の農業を静かに、しなやかに変えようとしているのではないか。ともすれば経済と産業論で考えがちだった農業を、女性たちはもう一度暮らしの現場からとらえ直そうとしている。 生産と消費という立場の違いはあれ、お互いの食卓と台所の安定と安心のために、ともに支え合おうではないかと農村女性たちが呼び掛ければ、たとえグローバル化で食の安全性が脅かされようとも身近で良い食べ物を作ってくれる人々との連携さえあれば解決していけると、都市の女性たちが呼応する。おそらく日本農業の未来は、食べることの大切さを共通テーマにした女性たちの力を中心に、その可能性が切りひらかれていくのではあるまいか。 しかしながら心配なことがある。女性たちに寄せる期待の高まりとは裏腹に、女性農業者の労働負担が増えている。手間の掛かる農作物づくりだけに専念しているわけではない。子育て、介護、家事、地域づくり活動と、その負担はますます過重になっている。働く農村女性が笑顔で安心して活躍するため、社会の理解と制度や支援体制の充実が早急に求められている。
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