
今年、創立60周年を迎えた岩手県遠野市松崎町の遠野緑峰高。地域と密接につながった研修や実習が、地域の農業を支える若い力を育てている。
脈々と息づいているのは地元農家での宿泊研修。生産者らでつくる遠野農業志向青年教育推進委員会が受け入れ先となり、県内農業高校で最も古く、前身の遠野農業高時代の1972年から続く。同市からも補助金を受けている。
今年は生産技術科生産科学コースの2年生が稲作や農家レストラン、果樹などテーマごと6班に分かれ、2泊3日の日程で栽培、収穫や加工製造などを学んでいる。
菊池真実さん、小松千里さん、多田美紗妃さんは今月上旬、水稲と和牛繁殖、農作業受委託を経営している同市青笹町の菊池由紀夫さん(55)の家で宿泊研修し、初めての体験に心躍らせた。
予定していた稲刈りは降雨で体験できなかったものの由紀夫さん、妻登志子さん(52)の指導を受け、黒毛和牛のブラッシングに加え、トマトの収穫、サツマイモ掘りなどを体験。収穫したものを味わいながら、自家用で数多くの品目を育てる恵みを実感した。
枝豆の実を枝から外す作業も手伝った。由紀夫さんに「生で食べてごらん」と促され、初めて食べる生徒たち。「意外と甘いね」「サラダにできそう」と目を輝かせた。
「同じ地区にいても、これだけ数多くの作物を育てているとは知らなかった」と多田さん。「同じ作物でも工夫すれば、いろいろな時期に楽しめることが分かった」と菊池真実さん。「自給自足は素晴らしい。自然の中で暮らしたい」と小松さん。
「1日農作業をすると体力的には疲れるけれど、何だか癒やされるね」と3人は顔を見合わせ、はにかみながら「いずれは農家の嫁に行きたい」。農業に携わる充実感を感じた様子だった。
推進委のメンバーは同校OBが大半。宿泊研修経験者が現在、研修を受け入れているケースもある。同委の会長を務める由紀夫さんは「先輩として、後輩に地域に残って農業に何らかの貢献をしてほしいという思いがある。しかし、育てるには『地域力』が必要。受け入れる自分たちにとっても勉強になる」と強調する。
地域との結びつきが強いのは、創立直後の歴史的経緯があるためだ。1950年代、遠野農業高の校舎建設などのため市民らによる募金活動が行われ、中には米で払った人もいたという。
自身も同校OBの藤井洋治校長は「学校ではできない教育を地域にしてもらっている。生きる姿勢も学んでいる」と感謝する。
同校は地域の伝統野菜の生産にも取り組んでいる。遠野地方の農家が細々と育ててきたとされる「早池峰菜」の種を種苗会社から購入し、2006年から栽培。高菜や野沢菜に似ており漬物の材料として期待される。
地域の人との協力で新たな活用法のヒントも得た。生徒らが近くのレストランに早池峰菜を持ち込み、チーズケーキを試作してもらった。鮮やかな緑色が彩りを添え、独特のえぐみも消えて好評だったという。
栽培指導を担当する鈴木克弥教諭は「遠野は民話のふるさとだけに、歴史や伝統を関連づけ付加価値を高めたい。栽培方法だけでなく加工法も確立したい」と伝統野菜での地域振興という「恩返し」を目指す。
近年、同校を卒業後すぐに就農する生徒はゼロ。それでも近隣で別の仕事に就き、土日に実家の農作業を手伝う「予備軍」もいる。
地域で「次世代」を育てようとの思いは生徒にも伝わっている。同校農業クラブ会長の田尻和之君(2年)は卒業後、県立農業大学校の進学を目指し、その後酪農・畜産の道に進みたいという。「いろいろな機会に地域の方の協力をいただき感謝している。農業経営はこうした方がいいという生のアドバイスも受けた。実際の農業にも、進路選択にも生きるはず」と前を見据える。
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